山口 里恵 院長(八巻歯科医院)のインタビュー

八巻歯科医院 山口 里恵 院長

八巻歯科医院 山口 里恵 院長 (RIE YAMAGUCHI)

『日本大学松戸歯学部』を七回生として卒業後、同大学矯正学教室にて三年間、矯正歯科を学ぶ。結婚を機に専業主婦となるが、平成十九年、父の急な体調不良をきっかけに祖父の代から続く『八巻歯科医院』を三代目として継承。六十歳のときに神奈川歯科大学大学院を卒業し、現在に至る。(JR東日本 東海道本線 戸塚 南谷戸小松ヶ丘住宅前下車 徒歩1分)

ある日突然、歯科医師に。ゼロから始まった三代目としての一歩

祖父が開業し、父と母が二代目として守ってきたこの診療室。大学を卒業してすぐに結婚し、専業主婦として過ごしていた私が三代目を継ぐとは、思ってもみませんでした。平成十九年、父が体調を崩し、「お前が歯を抜け」と言われたときは、心底驚きました。実はその少し前に、家族に不幸がありました。落ち込む日々の中で「何かやらなきゃ」と思っていたところに、父からの言葉が重なりました。歯を抜いたこともなければ、タービンを握ったこともない状態からのスタートでした。父から直接の引き継ぎはなく、私が診療を始めたその日から父は診療室に来なくなりました。専門は矯正歯科でしたから、抜歯はまったくの未経験のまま最初の患者さんと向き合ったのを覚えています。支えてくれたのは、父の代から診療室を知る、腕の良い歯科技工士さんでした。石膏の型が少しでも甘いと厳しく指摘されながら育てていただき、今では何でも相談し合える、かけがえのない師弟関係を築くことができました。小さいころから知っていた知っていた患者さんには「本当にあなたにできるの」と心配される日々でした。それでも二代、三代と通ってくださるご家族に支えられ、旅行のお土産やおかずをいただくこともあります。お金の代わりに食べ物と交換して治療する、昔ながらの「赤ひげ先生」のような医療が、私の理想です。父もそうした人でした。

患者さんの話を「絶対に聞く」という診療の軸

日々の診療で大切にしているのは、患者さんの話を絶対に聞くということです。「ここが痛い」とおっしゃっても、実際には別の場所に原因があったり、単なる傷だったりすることも少なくありません。短い診療時間のうち十五分以上をお話を伺う時間にあて、実際の処置は五分ほどになることもありますが、納得していただいてから治療を進めることを何より大切にしています。お口は頭に近い、とてもデリケートな場所です。他の歯科医院で「十分な説明もないまま神経を抜かれた」というお話を伺うことも少なくありません。私自身は一般歯科の師匠について一から修行したわけではなく、矯正歯科から直接この診療室を引き継いだ立場です。だからこそ、自分にできないことや限界を理解したうえで、的確な診査診断と丁寧な説明を人一倍心がけています。また、通院が長引くような診療は行いません。何をされているのか分からないまま通わされる治療は、患者さんにとってつらいものだと思うからです。

 

「ここで頑張らなきゃ女がすたる」東日本大震災での身元確認活動

この言葉を、私は座右の銘にしています。東日本大震災の被災地へ身元確認のために派遣された経験から、今も大切にしている思いです。当時、開業している女性歯科医師としての派遣は全国でも数少ないケースでした。行くかどうか悩んでいたとき、娘と孫から「ここで行かなきゃ女がすたる」と背中を押され、覚悟を決めました。歯科医師の仕事は、生きている方のお口を診るだけではありません。かつて各警察署に配属される警察協力歯科医を務め、身元不明のご遺体の歯の状態を生前のカルテと照合するという活動にも携わってきました。震災の年の七月、一週間の期限で宮城県へ向かい、県内三か所の安置所を巡る日々でした。あまりに多くのご遺体が続く日もあり、亡き娘と父が眠るお寺の和尚に電話をしたところ、私は悲しみを知る人だからこそ気持ちを込めて亡くなった方を送り出してほしいのだというお言葉をいただき、心がすっと軽くなったのを覚えています。一体一体に声をかけながら丁寧に歯科所見を取り、離断遺体を除く二十一体の身元確認作業に携わりました。その時の感謝状は今も診療室に掲げています。この経験を通じて、お口の中の情報が「その人が生きた証」であることを強く実感しました。だからこそ、患者さんのカルテやレントゲンといったデータを、何かあったときにいつでもお渡しできるよう、大切に管理することを心がけています。

名札をつけたスタッフと築く、アットホームな診療室

当院のスタッフは全員女性で、二十年以上勤めてくれているベテランばかりです。「受付の人」ではなく一人ひとりの名前を覚えていただきたいという思いから、全員に名前入りの名札をつけてもらっています。診療が終わったあと、私よりもスタッフと立ち話をしている患者さんの方が多いくらいで、スタッフ一人ひとりに「推し」のような存在がついているほど、温かい関係があります。私はスタッフを雇い主と従業員ではなく、対等なパートナーだと思って接しています。だからこそ、診療中は、私が「歯を削ります」とひとこと言うだけで、必要な器具がすっと揃います。一人が防護服を用意し、一人が器具をセットし、一人がレントゲンの準備をするというように、隙間の仕事を自然と埋め合う連携ができており、いつも感心させられます。建物自体は父の代から何十年も経っていますが、スタッフたちが大切にしてくれているおかげで院内はいつも清潔に保たれています。院内には絵画や写真も飾られ、患者さんからは「サロンのようで落ち着く」という声をよくいただきます。

 

「いつまでも自分の歯で笑って」地域の皆様へ

ある患者さんから「片側だけでもいいから、入れ歯を作ってほしい」と頼まれたことがあります。医療の理想からすれば両側の噛み合わせを整えたいところですが、ご本人の希望を尊重して部分入れ歯をお作りしたところ、後日手作りのサンドイッチを持ってきてくださり「食べられるようになったよ」と喜んでくださいました。医学的な理想を押しつけるのではなく、患者さんの希望に寄り添うことの大切さを教えてくれた、忘れられない出来事です。地域の皆様には、いつまでも元気に、自分の歯で美味しく食べて、笑って過ごしていただきたいと願っています。以前、地域の高齢者の方に硬さの違うお菓子を試していただく機会があったのですが、歯がなく、痛みもあって思うように食べられないという方がいらして、胸が締めつけられる思いをしました。お口は栄養を取り入れるだけでなく、脳への刺激や全身の健康にもつながる、体の最初の大切な入り口です。孫が看護の道を目指してくれることになり、とても嬉しく応援しています。これからも一人でも多くの方に、その入り口を守るお手伝いができればと考えます。

 

※上記記事は2026年8月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。

八巻歯科医院 山口 里恵 院長 (RIE YAMAGUCHI)

八巻歯科医院 山口 里恵 院長 (RIE YAMAGUCHI)

  • 出身地:横浜市
  • 好きな場所:自宅
  • 好きな音楽:ジャンルを問わず幅広く
  • 好きな映画:ジャンルを問わず全般
  • 好きな本:ジャンルを問わず何でも
  • 好きな言葉:ここで頑張らなきゃ女じゃない

INFORMATION

八巻歯科医院

電話 045-881-2164
所在地横浜市戸塚区下倉田町下倉田町130 セントラルハイツ1F
最寄駅戸塚駅 約2.1km
営業時間[月曜・火曜・水曜・金曜]9:00~12:30  ※午後は前日までの完全予約制
[土曜]9:00~12:30
定休日木曜・日曜・祝日
診療科目 歯科 矯正歯科 小児歯科